R

2020/5 読書月記

  • 交渉術

交渉術 (文春文庫)

北方領土返還交渉の最前線に立っていた元外交官が語る、国家レベルの壮絶な交渉の生々しい記録。

外交の世界の話なので、かなりえげつない記述も多いです。裏表紙に「ビジネスマンの実用書としても役に立つ」と書いてありますが、この手法をそのまま一般企業で実行したら確実にアウトです。ただ、考え方だけは役に立てられると思います。

ロシアの情報機関は、人に言えないようなトラブル(不倫、麻薬など)をもみ消すことでターゲットに貸しを作り、弱みを握って協力者を得ていくという話があります。人間というのは窮地から助けてくれた人を信じるものだから。もっと広く捉えるなら、「普段から部下を助けていれば、部下が協力してくれるようになる」ということができるでしょう。

あと、人によっては因縁の相手がいたり指摘されたくない弱みがあったりするので、そういった「禁句」を事前に調べ上げておき、交渉の場では絶対に使わないこと。これは会社員として生きていく上でも、何かとデリケートな偉い人のご機嫌を損ねないために非常に重要なことだと思います…。

 

なお、著者は鈴木宗男と関係が深く、いわゆる鈴木宗男事件で逮捕された人なので、その件の記述についてはある程度留意して受け止める必要があります。彼のことを言っているのではありませんが、「一国のトップに立つような人間には独特のオーラ、後光がある。その人に近づきすぎた人間はその『渦巻き』に飲まれて思想が変容してしまい、その人自身に国益が体現されているように感じるようになる」というような記述が印象的でした。きっと政治の中心には一般市民には見えない世界があるのでしょう。

 

ジョジョの奇妙な冒険 8~17巻(第3部)セット (集英社文庫(コミック版))

ジョジョは2部までしか読んだことがなく、せっかくだからステイホーム中に続きを全部読もうと思って、何年か前に箱買いした3部から5部のコミックスを順番に読み進めています。これが今回の外出自粛中の大きな楽しみのひとつでした。

3部からは有名な「スタンド」という概念が出てくるのでテンションが上がりました。日本からエジプトまで世界各国を旅して、色々な国の文化をリアルに感じられるのも面白いです。続きが気になってすごいスピードで読んでしまうのですが、よく見ると読み飛ばすのが申し訳なくなるほど1コマ1コマの描き込みが細かくて驚きます。

キャラでいうと花京院が好きでした。さくらんぼの食べ方以外は。

 

・M/D マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究

M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究 

マイルス・デイヴィスの音楽についての東大教養学部での講義を書籍化したものです。音楽科ではない一般の学生向けということで、私のようなジャズをよく知らない人でも入り込めるような内容になっています。

ゴールデンウィーク中、ステイホーム期間でないとやらないようなことをしたいと思い、長らく積読だったこの本を本棚の奥から引っ張り出してきました。760ページもあるものすごく分厚い本です。講義の内容のほか、教室で流した参考音源も一緒に載っていて、YouTubeなどでそれを全部聴きながら読みました。この大作を腰を据えて読むというのは普段ならなかなかできないことです。

 

これまで私が聴いたことのあるマイルスのアルバムというと、「Kind Of Blue」「In A Silent Way」「Bitches Brew」くらいです。ベースになっている落ち着いた空気の滞留をトランペットが不思議な緊張感を持って切り裂いていくような、新鮮で魅力的な音楽でした。この講義では、それは和声進行ではなくメロディーを推進力として音楽を展開していく手法と、彼の生まれ持った育ちの良さ、エレガンスによるものだと語られていて、そう言われてみるとストンと落ちるものがありました。

アメリカの文化の変遷と、その中でのマイルスの音楽の位置づけが感じ取れるのが良かったです。もっと巨匠然としたイメージを勝手に持っていたのですが、彼は思ったよりずっとポップスターだったようです。