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旧朝倉家住宅&ヒルサイドテラス

まずは大正ロマンを形にしたような旧朝倉家住宅。

庭園が見事です。秋ということで紅葉がきれいでした。

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邸宅は和をベースにしたモダンな雰囲気です。それぞれピッチの異なる細かい直線が心地よいリズムを生み出します。

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長い間実用に供されてきた家であり、どこか生活感があります。日に焼けたカーペットの風合いが美しいです。

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庭園を楽しむことをコンセプトに作られたのか、この建物にはガラス戸がとても多く、どこにいても緑を近くに感じることができます。窓の上部から少しだけ庭の景色を覗けるようになっていたり、

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逆に、庭園が主役の舞台のようになっていたり。

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ここはこの邸宅の中で一番美しかった場所です。パノラマのように広い開口部から射し込む西日が庭園の緑を輝かせ、障子や床板にも豊かな表情を与えています。

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中には洋間もあり、ここからも日本庭園を望むことができます。庭園の木の柔らかい枝振りと、温かみのある室内装飾が不思議と調和します。

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庭園を通って旧朝倉家住宅の外に出ると、シームレスにヒルサイドテラスに繋がっています。

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設計は槇文彦。上の邸宅を所有していた朝倉氏を施主として、30年近くかけて少しずつ作り上げられたプロジェクトです。

代官山は今でこそオシャレなお店が立ち並ぶ街というイメージですが、当時は何もない住宅地だったそうで、建物の高さや容積率にも制約がありました。その制約の中で、住居と店舗、ギャラリーなどを相互に影響を与え合うように一つのビルに混在させ、豊かなパブリックスペースで緩やかに繋いだ新しい試みとして、ヒルサイドテラスのプロジェクトが進められました。

個人的に、ヒルサイドテラスは代官山の顔という印象があります。商業地域となった今では高い建物も多いですが、旧山手通りの建物はだいたい街路樹と同じくらいの高さで、ヒューマンスケールにまとまっています。空が広く、店舗やギャラリーがすべて人の手の届くところにある落ち着いた街というイメージは、このヒルサイドテラスが作っているのではないかと思います。

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50年前の建物だけあって、ディティールはどことなくレトロな感じがします。ドアのデザインや床の色彩がかわいいですね。

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もっと大きい部分に目を向けると、隣の旧朝倉家住宅の緑と重なり合うような設計が印象的です。借景と呼ぶには近すぎる気もしますが、背後の庭園から張り出す木々を建物の一部として取り入れた設計になっています。

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こちらは庭園に面する側を全面ガラス張りにしたレストラン。開放感があります。

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こちらの棟では、後ろの庭園から引き込んだ緑、手前のオープンスペースに飾られた緑が重なり合い、奥行きのある空間を作っています。

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旧朝倉家住宅とヒルサイドテラスは対照的な建物に見えます。和と洋、プライベートとパブリック。ただ実際にここを歩いてみると、異なる作風でありながらコンセプトを共有した二つの建築が連続性を持って繋がっていることが分かります。

背後の美しい庭園を、旧朝倉家住宅は広いガラス窓で屋内に取り込み、ヒルサイドテラスは組み上げられたホワイトボックスの狭間から覗かせる仕掛けです。そして、この落ち着いたスケール感だからこそ、人間が自然体で寛げる家やクリエイティブになれる空間が生まれたのだろうと思わされます。