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新国立競技場

新国立競技場の見学に行ってきました。

東京オリンピックパラリンピックも終わり、現在スタジアムは原状回復工事中なのですが、その工事が休みの日に予約制で見学会を開催していて、スタジアムの中に入ることができます。

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外観。47都道府県から集めてきた木材をスタジアム一周分ぐるりと配したひさしが特徴的です。スタジアムの北の方は北海道や東北、南の方は九州や沖縄の木が使われるなど、実際の方角に即して配置されているようです。

スタジアムの周りは公園のようになっています。細かくカットされたひさしの木材は、少し離れたところから見ると、遠近法の原理で周辺に植えられた木の枝とちょうど同じくらいの細さに見えます。木材のスケールや色調を周囲の草木と合わせたおかげで、スタジアム全体が周辺の環境にうまく溶け込んでいます。「負ける建築」という建築家の理想を体現するデザインだと思います。

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中に入ると、スタジアムの各席への入り口は細い通路になっています。スタジアムに近づくと突然視界が開けるドラマチックな仕掛けです。

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外観からは控えめな印象を受ける建物ですが、スタジアムの中に入るとその巨大さに圧倒されます。

客席はカラーリングされていて、アースカラーのトーンでいくつかの色に塗り分けられています。トラックの色を引き継いだような赤茶色は下の方の席に多く、上に行くに従ってスタジアムのベースカラーである白の座席が増えていきます。遠くからはモザイクタイルのように見えますね。

このスタジアムを設計した時は無観客での開催になることは想定されていなかったはずですが、この客席のカラーリングのおかげで、結果的には無観客でも寂しい絵面にならない効果があったように思います。

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特徴的な大屋根はかなり遠くまで張り出していて、存在感があります。私は建築についてまったくの素人ですが、構造設計の方の偉大な仕事がこのデザインを支えているのでしょう。

外から見るとあまり高さを感じないのですが、客席はかなりの急傾斜で、そのおかげで後ろの席に座っても競技場が近くに見えます。

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可能な限り暖かみのある素材や色の組み合わせで作られているスタジアムですが、エスカレーターにだけはガラスやメタリックな素材が使われていました。ここだけ少し表情が違っていて美しいです。

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スタジアムの外側には階段もあります。ここからは周りの景色が見えるようになっていて、このスタジアムが緑に囲まれていることと、都心のど真ん中にあることを同時に感じさせます。

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ザハ・ハディド案の撤回、1年間の延期、無観客での開催など、計画から実施までさまざまな困難があったオリンピック・パラリンピックでした。この国立競技場も、当初想定されていたような「観客にスポーツの夢や感動を生で伝える」という役割を果たすことは、残念ながらありませんでした。

ただ、現在何も開催されていないこのスタジアムには、案外多くの人が集まっていました。家族連れやお年寄り、ペットの散歩をする人にとっては、スタジアム周囲の公園が憩いの場になっているようでした。ランナーの姿も多く、彼らはランニングコースとして景観を楽しみながら、あるいは将来自分がオリンピックに出場する姿をイメージしながら走っているかもしれません。

オリパラは終わりましたが、国立競技場が人々に親しまれるスタジアムとしてその役割を果たすのは、むしろこの先のことなのでしょう。

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